木ノ下FIVEとは
木ノ下FIVE(キノシタ・ファイブ)は、見たことのない設定の中から、すでに学んだ知識や典型パターンを見つけ、問題を解ける形へ整理するための5つの思考ステップです。
中学受験理科では、覚えている知識をそのまま答えるだけでは解けない問題が出題されます。
見たことのない実験、複雑な表やグラフ、長い問題文、複数の条件が組み合わされた計算問題などです。
このような問題に出会ったとき、子どもはつい、
・習った問題かどうか
・使える公式があるか
・答えを知っているか
だけで判断しようとします。
しかし、初見に見える問題も、何も知らない状態からひらめきだけで解くものではありません。
多くの場合、すでに学んだ知識や典型問題が組み合わされています。
大切なのは、問題の中にある情報を見つけ、それが何を表しているのかを認識し、知っている知識や典型パターンとつなげ、条件を整理してから解くことです。
私が授業で行ってきた初見問題への対応を振り返ると、思考の流れには5つの段階がありました。
これを「木ノ下FIVE」と呼ぶことにします。
初見問題は、木ノ下FIVEで解く。
これが木ノ下FIVEの基本的な考え方です。
この記事でわかること
この記事では、中学受験理科専門講師・木ノ下翔が、次の内容を解説します。
・木ノ下FIVEとは何か
・初見問題をどのように考えるのか
・「見る・認識する・つなげる・整理する・解く」の違い
・過去問演習での使い方
・解き直しで確認すること
・家庭で保護者ができる声かけ
・木ノ下メソッドとの違い
木ノ下FIVEを整理した理由
木ノ下FIVEは、難しい理論を新しく作ろうとして生まれたものではありません。
私が授業で初めて見る問題を解説するときに、どのような順序で考えているのかを振り返り、5つの段階として整理したものです。
私は問題を見ると、すぐに式を書いているわけではありません。
まず、問題の中に何があるのかを見ます。
次に、その図、表、実験、数値が何を表しているのかを認識します。
そして、これまでに学んだ知識や似た問題とつなげます。
必要な条件を図や表に整理してから、計算、選択、記述などの処理に進みます。
つまり、「解く」という作業は思考の最後にあります。
初見問題で差がつくのは、解く前に何をしているかです。
その思考を、子どもや保護者にも確認できる形にしたものが木ノ下FIVEです。
木ノ下FIVEの5つのステップ
木ノ下FIVEは、次の5つの段階で構成されています。
・見る
・認識する
・つなげる
・整理する
・解く
この5つは、単なる合言葉ではありません。
問題を解いている途中で、
「何を見るべきかわかっていない」
「図の意味を認識できていない」
「知識とつながっていない」
「条件を整理できていない」
「最後の処理で間違えた」
と、つまずいた場所を確認するための言葉でもあります。
1.見る
最初の段階は「見る」です。
ここでいう「見る」は、問題文を最初から最後まで読むことだけではありません。
問題の中に何が置かれているのかを確認し、重要な情報や変化を探す作業です。
たとえば、次のようなものを見ます。
・設問で何を聞かれているか
・図の形や向き
・実験装置のつながり方
・表の項目
・グラフの縦軸と横軸
・数値の増減
・単位
・条件を表す言葉
・選択肢の違い
・問題文中の注意書き
ただし、すべての問題を同じ順番で読むわけではありません。
実験考察問題では、最初から長いリード文をすべて丁寧に読むと、時間が足りなくなることがあります。
そのような場合は、
・設問
・実験条件
・表、グラフ、図、単位
・必要な部分のリード文
という順番で見ることがあります。
問題の形式に合わせて、最初に見る場所を変えることも大切です。
「見る」の段階では、まだ答えを出そうとしなくて構いません。
まず、問題を考えるための材料を集めます。
2.認識する
次の段階は「認識する」です。
「見る」で集めた情報が、理科として何を意味しているのかを判断します。
たとえば、
・この回路は直列か並列か
・この実験は何を調べるものか
・何の条件を変えているのか
・何の条件をそろえているのか
・この表は何と何を比較しているのか
・このグラフの折れ目は何を表しているのか
・この天体図はどの方向から見たものか
といったことを考えます。
図が見えていても、その意味を取り違えると正しい答えにはつながりません。
見慣れた図と似ていても、条件や見る方向が違うことがあります。
「前にも見たことがある」という印象だけで判断せず、
・何を表しているのか
・何を比較しているのか
・どの条件が変化しているのか
・何が一定なのか
を言葉にできる状態にします。
3.つなげる
3つ目は「つなげる」です。
認識した内容を、これまでに学んだ知識、典型問題、実験、自然現象と結びつけます。
初見問題は、何も知らない状態から考える問題ではありません。
見たことのない設定であっても、その中には、これまでに学んだ考え方が使われています。
たとえば、
・これは植物の発芽実験と同じ考え方だ
・これは対照実験として考えられる
・この表は比例関係を探す問題だ
・このグラフの折れ目は化学反応の終了を示している
・この装置は電流の通り道を考える問題だ
・この力学問題は、てこのつり合いと結びつく
・この天体問題は、地球を上から見た図に直せる
というように、知っている型へつなげます。
これは難しいひらめきというより、類推や連想に近いものです。
ただし、表面的に似た問題へ、覚えた解法をそのまま当てはめるのは危険です。
同じような図でも、条件が違えば使う考え方も変わります。
目の前の問題と、本当に結びつくかを確認することが必要です。
4.整理する
4つ目は「整理する」です。
問題文、図、表、知識を頭の中だけで扱わず、解ける形に並べ直します。
たとえば、
・図に矢印を入れる
・電流の通り道を色分けする
・わかっている数値を書き込む
・求めるものを記号で置く
・実験条件を表にする
・変化するものと変化しないものを分ける
・自分で図を描き直す
・比をそろえる
・単位を統一する
といった作業です。
難しい問題ほど、頭の中だけで処理すると混乱します。
天体の問題であれば、地球を上から見た図を描き、自転や公転の方向を矢印で示します。
実験考察問題であれば、変えた条件、そろえた条件、実験結果を表にします。
回路の問題であれば、電流が流れる道筋を確認します。
力学の問題であれば、支点、力点、作用点や、距離と力の関係を図へ書き込みます。
整理することは、きれいなノートを作ることではありません。
間違えずに解くために、情報の関係を見える形にすることです。
5.解く
最後が「解く」です。
ここで、計算、選択、記述などの具体的な処理に入ります。
ただし、木ノ下FIVEの「解く」には、目の前の問題へ無制限に時間を使うという意味はありません。
入試本番では、
・今の自分が解くべき問題か
・時間をかければ得点できる問題か
・後回しにするべき問題か
・深追いしなくてよい問題か
を判断することも必要です。
計算や記述が終わったら、答えが問題の条件に合っているかを確認します。
・単位は合っているか
・数値の大きさは不自然ではないか
・問題で聞かれたことに答えているか
・選択肢に該当するものがあるか
・すべての条件を使っているか
・図で考えた向きと答えが一致しているか
計算結果が選択肢にない場合、無理に近い数字を選んではいけません。
計算ミスだけでなく、問題の見方、現象の認識、知識とのつなげ方、条件整理のどこかに誤りがある可能性があります。
その場合は、前の段階へ戻ります。
木ノ下FIVEは一方通行ではありません
木ノ下FIVEは、
見る
↓
認識する
↓
つなげる
↓
整理する
↓
解く
と、一度だけ進む手順ではありません。
解いて矛盾が出たら、整理へ戻ります。
整理できなければ、認識へ戻ります。
何を意味しているのかわからなければ、もう一度図や表を見ます。
このように考え直しながら進むことも、初見問題を解くための大切な思考です。
また、すべての問題に同じ時間を使うわけではありません。
知識問題であれば、
見る
↓
認識する
↓
解く
と短く進むことがあります。
複雑な実験考察問題では、5つの段階を何度も行き来することがあります。
大切なのは、形式的に5回の作業をすることではありません。
自分がどの段階で止まっているのかを把握することです。
木ノ下FIVEでつまずきを分ける
子どもが問題を間違えたとき、「理科が苦手」「応用力がない」という言葉だけでまとめると、次の対策が見えません。
木ノ下FIVEを使うと、間違いを次のように分けられます。
見る段階のつまずき
・設問で聞かれていることを見落とした
・単位を見落とした
・グラフの軸を確認しなかった
・注意書きを読まなかった
認識する段階のつまずき
・実験の目的を取り違えた
・図を見る方向を間違えた
・変えた条件とそろえた条件を区別できなかった
・何の現象か説明できなかった
つなげる段階のつまずき
・公式だけを探した
・典型問題と結びつかなかった
・似た問題の解法をそのまま当てはめた
・複数単元の組み合わせで止まった
整理する段階のつまずき
・すべて頭の中で考えようとした
・図や表を作らなかった
・条件を途中で忘れた
・単位や基準が混在した
解く段階のつまずき
・計算を間違えた
・聞かれたものと違う量を求めた
・単位を書かなかった
・矛盾が出ても前の段階へ戻らなかった
・一つの難問に時間を使いすぎた
どの段階で止まったのかがわかると、解き直しの内容が具体的になります。
過去問演習での使い方
木ノ下FIVEは、学校別の過去問演習で活用できます。
過去問を解いたあとは、正解数や点数だけでなく、問題ごとにどの段階で止まったのかを確認します。
たとえば、
・見る:グラフの縦軸を読み違えた
・認識する:実験の目的を取り違えた
・つなげる:浮力の知識と結びつかなかった
・整理する:体積と重さを表にできなかった
・解く:単位換算で間違えた
と記録します。
これにより、「同じ問題の答えを覚えて解く」だけの復習になりません。
別の問題でも使える改善点が見つかります。
過去問は、学校の出題傾向を知るためだけのものではありません。
自分の思考の癖を知る教材でもあります。
解き直しで確認すること
解き直しでは、正しい答えを書き写すだけでは不十分です。
次の点を確認してください。
・最初に何を見るべきだったか
・図や表を何として認識すべきだったか
・どの知識や典型問題とつなげるべきだったか
・どのような図や表に整理すればよかったか
・最後の処理で何を確認すべきだったか
できれば、解説を閉じたあとに本人の言葉で説明させます。
「この問題は、最初に何を見る問題だった?」
この質問に答えられると、学習内容が次の問題へつながりやすくなります。
正解を覚えるのではなく、正解にたどり着くまでの思考を残すことが大切です。
家庭で保護者ができること
保護者の方が問題の答えを説明できなくても、木ノ下FIVEを使った声かけはできます。
子どもが「わからない」と言ったときは、すぐに解き方を教えるのではなく、次のように聞いてみてください。
・問題の中で、最初に見るべきところはどこ?
・これは何を表している図だと思う?
・習った内容の何と関係しそう?
・条件を図や表にまとめられる?
・出した答えは、問題の条件に合っている?
これらは順番に、
見る
認識する
つなげる
整理する
解く
を確かめる質問です。
ただし、すべてを一度に質問する必要はありません。
子どもが止まっている段階に合わせて、一つだけ問いかけます。
木ノ下FIVEは、子どもを評価するためのチェックリストではありません。
考え方を育てるための共通言語です。
木ノ下FIVEと木ノ下メソッドの違い
木ノ下FIVEは、特定の単元の解法そのものではありません。
てこ、浮力、回路、天体、化学計算などには、それぞれ必要な知識や具体的な解き方があります。
それらの具体的な解法を木ノ下メソッドとするなら、木ノ下FIVEは、その解法をいつ、どのように使うかを判断するための思考の流れです。
・木ノ下メソッド:問題を処理するための具体的な解法
・木ノ下FIVE:初見問題を理解し、使う解法を選ぶための思考手順
解法を知っていても、どの場面で使うのかわからなければ得点にはつながりません。
木ノ下FIVEは、知識や解法を目の前の問題へつなげる役割を持ちます。
木ノ下翔からのアドバイス
初見問題に出会ったとき、「習っていないから解けない」と決めつけないでください。
見たことのない問題にも、これまでに学んだ知識や典型パターンへつながる入口があります。
その入口を見つけるために、まず問題を見ます。
何を表しているのかを認識します。
知っていることとつなげます。
条件を整理します。
そして、最後に解きます。
答えが条件に合わなければ、前の段階へ戻ればよいのです。
最初から最短距離で正解へ進めなくても構いません。
考え直しながら進むことも、理科の大切な力です。
過去問演習では、正解したかどうかだけでなく、「どこまで自分で考えられたか」を残してください。
見ることができたのか。
意味を認識できたのか。
知識とつなげられたのか。
条件を整理できたのか。
最後の処理で間違えたのか。
この違いがわかるようになると、解き直しは単なる答え合わせではなくなります。
初見問題は、木ノ下FIVEで解く。
この5つの言葉を、問題に向き合うときの共通言語として使ってください。


